成人の海馬でも神経幹細胞は生まれてきている
Human Hippocampal Neurogenesis Persists throughout Aging.
Boldrini M, Fulmore CA, Tartt AN, Simeon LR, Pavlova I, Poposka V, Rosoklija GB, Stankov A, Arango V, Dwork AJ, Hen R, Mann JJ.
Cell Stem Cell. 2018 Apr 5;22(4):589-599
<Abstract>
記憶に関係する海馬(歯状回)の神経と血管の新生は年齢によって低下することで体積が縮小すると考えられてきたが詳細は不明である。健康な14-79歳の剖検を調べたところ神経幹細胞・未熟な神経細胞などの数が歯状回後方では年齢で低下しない(前方は軽度低下)ことがわかった。
<Figureの説明>
可塑性のある神経芽細胞(PSA-NCAM陽性)が全てのステージ(D列が一番幼弱(immature写真B)、E列が中間(unipolar 写真C)、F列(pyramidal写真C)がかなり分化が進んだ細胞)で年齢と比例して海馬前部で低下している。
<Introduction>
海馬は記憶やストレス耐性に関与していて、近年の報告では成人後も海馬の歯状核で新たな神経細胞が産生されていると報告されているが詳細は不明である。画像検査で体積が減るという報告や形状が変化するという報告があるが解像度の問題があるため、今回年齢横断的に病理解剖を行い海馬の神経再生を評価した。
<Methods>
14~79歳の28人(精神神経疾患の無い患者)の脳病理所見を取得し、海馬の歯状核を前・中・後の3つに分け、血管新生・体積・神経新生を評価した。神経細胞の分化は以下の染色方法で判断
Ⅰ停止神経幹細胞 QNPs:GFAP、Sox2
Ⅱ中間神経幹細胞 INP:Ki67、Nestin
Ⅲ神経芽細胞 NB:DCX、PSA-NCAM(GFAPとSoxは消える)
Ⅳ神経細胞 GNs:NeuN
新生血管:Nestin、Collagen-IV、PECAM(CD31)
<Results>
年齢と反比例して海馬前部のⅠの細胞(不活発な神経幹細胞)が減っていたが、中・後では同じ数だった。またⅡ~Ⅳの神経の元になる細胞数は年齢および場所による減少は無かったが、移動・シナプス形成・運動による活発化を示す神経可塑性は低下していて、血管新生と血管面積も年齢によって低下していた。
<川堀の感想>
血管新生力と細胞の元気具合(数は変わらない)が海馬の前方部分で年齢に比例して低下しているとの結論であった。この部分を救済することで認知機能を改善できる可能性が加賀得られ、将来、認知症に幹細胞投与が可能になった場合に我々の直接投与法を用いて、海馬前方部分へ投与すれば良いかもしれないと考えた。色々な免疫染色法も勉強になった。