再生医療とは?

再生医療とは、病気や事故などで失われた/機能低下した組織や臓器を、患者の体外で培養した細胞や組織を用いて修復再生し、機能を補完する医療のことです。
(詳しい定義や日本における法律等については厚生労働省のサイトに詳しく(やや専門的で難しいですが・・)載っています。

脳梗塞に対する自己骨髄幹細胞の脳内投与による回復支援の治験

これは我々が現在行っている脳梗塞に対する再生医療の治験の模式図です。
患者さんから採取した幹細胞を培養・増殖し、脳内に戻すことで種々の効果をもたらすと考えています。本治験について詳しく知りたい方はこちらをご覧ください

2019年5月まで6例の患者さんに対して、細胞移植を行っています。

再生医療?細胞治療?

再生医療と同じ様に使用される言葉に細胞療法があります。概ね同じ意味で使われますが、左の図の様に少しだけ違う部分もあります。(培養細胞から分泌されるタンパク質などを使って体内の細胞を活性化する方法や、移植細胞によってがん細胞を攻撃する治療法など)

再生医療と中枢神経障害(脳や脊髄の障害)

神経は元には戻らない!?

19世紀にスペインのS. Ramon Y Cajal博士が神経系の構造に関する詳しい研究を行いノ現在に至る神経生物学の基礎を築き、ノーベル賞を受賞しました。
その中で「成体哺乳類の中枢神経系は損傷を受けると二度と再生しない」と結論して以来、中枢神経の神経細胞は増殖しないと考えられてきました。
(しかしこの中で「この過酷な運命をもし変えるものがあるとするならばそれは将来の科学に他ならない」とも述べています。将来の科学がたどり着ける可能性にまで着目していたことは実に素晴らしいと思います)

神経は元には戻りうる!

1992年にReynolds博士とWeiss博士が脳内に存在するニューロンやアストロサイトやオリゴデントロサイトなどの多くの神経系細胞に分化することの出来る神経幹細胞が存在することを証明しました。→幹細胞研究の夜明け

様々な幹細胞(その利点と欠点)

多くの幹細胞の発見・発明

神経幹細胞の発見と前後して、胚性幹細胞(embryonic stem cells:ES細胞)、間葉系幹細胞(Mesenchymal stem cell:MSC細胞)、人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell:iPS細胞)が発見、発明されました。特にiPS細胞は日本の山中教授らによって作成され、神経再生医療だけではなく、難治性の患者などから細胞を作り出すことで、病気の原因や薬の効果などを確かめることが出来る(創薬)など、今までにない全く新たな使い方も考案され、ノーベル賞を受賞しています。

どの幹細胞も完璧ではない・・

主要な幹細胞として、ES細胞、iPS細胞、MSC細胞などが上げられます。
どの細胞も完璧ではなく、それぞれに強みと弱みがあります。ES細胞は細胞の万能性(理論上あらゆる細胞に分化可能)が強みですが、胚という生命の始まりと理解されても良い細胞を破壊する事に対する倫理的な問題があります。iPSはこの倫理的な問題をクリアし、患者本人からES様の細胞を作れるという「出来の良い弟」ですが、腫瘍化(癌化)という問題が完全にはクリアされていません。一方我々が着目しているMSC細胞は倫理面の問題もありませんが、分化に制限があるという弱点があります。
それぞれの疾患に対して何が最適な細胞なのかについては更なる研究が必要です。

治験って何?治療と違う?

治験?治療?(濃い色の単語はクリックすることでより詳しい説明に移行します)

よく聞く「治験」という単語ですが、「治療」とは違います。
「治療」には日本では、「保険診療」、「高度先進医療」、「自由診療」の3つがあります。「保険診療」は厚生労働省の非常に厳しい審査を経て、保険制度のもと使えるようになった薬や医療機器(再生医療等製品)の事です。一方有効な可能性があるものの保険診療に申請するには十分なデータが足りないなどの理由から、厚生労働省に申請し認可された病院でだけで出来るというのが「高度先進医療」です。治療費のみ自費でその他の入院費等は保険診療で行えるという制度です。高度先進医療の多くはデータをさらに集めて将来の保険診療を目指しています。またそれとは別に効果が科学的に証明されていない治療法(効果が無いと言うことではありません)は「自由診療」になります。海外では有効性が示されているが日本ではまだ認可されていない薬などを医師が必要と判断し、患者に説明した上で使用することになりますが、全ての費用に保険が使えないので高額になりますし、薬によっては効果の検証も十分なされていないという一面もあります。日本において、脳卒中や脊髄損傷などの病気で「保険診療」に通ったものはありません(世界でも私の知る限り「保険診療に相当する」審査に合格したものはありません→2019年4月に世界で初めて条件付き期限付き承認でNIPRO/札幌医大の脊髄損傷に対する自家骨髄幹細胞ステミラックが承認されました)。「高度先進医療」として、「胸髄損傷に対する自家嗅粘膜移植による脊髄再生治療」が大阪大学病院で認可されています。
治験」はこの「保険診療」を目指して患者さんに参加してもらってデータを取得する研究です。非常に厳しいルールの下、効果や安全性が吟味されます。動物実験等で安全性や有効性が見込まれるものだけが「治験」に進めますが、それでも人間で本当に効果があるかどうかは未知数です。治験の多くは研究費でまかなわれるため参加する人の金銭的負担は大変少ないものになります。研究にはその他として「自主臨床研究」があります。これはより良い医学の進歩のため、もしくは先進医療への申請のために行われるもので、「治験」ほどの厳しいルールはありません(もちろん各病院での倫理委員会に通ったもののみが行えます)。

日本で現在進行中の幹細胞を用いた脳卒中および頭部外傷、脊髄損傷への治験

脳梗塞の治験
2019年5月、現在日本では、脳梗塞に対して5つの治験が進行中です。細胞の種類(自分の細胞(自家細胞)か他人の細胞(他家細胞))や投与方法(静脈投与か直接投与)、投与時期(超急性期(最初の数日以内)、亜急性期(最初の数ヶ月以内)、慢性期(それ以降の長く時間が経った後))などに違いがあります。超急性期(発症してから数日)には他人の細胞を点滴で投与するマルチステムのTREASURE研究の治験(大学病院を中心に日本中で40施設ほど)、帝人/JCRのJTR-161細胞(慈恵会医科大学病院)があります。亜急性期(発症して数ヶ月以内は)我々北海道大学の細胞を脳内に直接投与する治験(RAINBOW研究)(自分の細胞)、の他に、静脈から点滴する札幌医大の再生医療治験があります(自分の細胞)、生命化学インスティチュートのMuse細胞(東北大学)(他人の細胞)の投与が開始されています。ただ最も患者さんが多いと考えられる慢性期の脳梗塞に対しての治験はまだ開始されていません。これらの細胞は全て間葉系幹細胞です(帝人のみ歯髄で、他は全て骨髄由来)。これらの治験が進むことで、どの細胞を、どのくらいの量、どの投与方法で、どの時期に、どのような患者さんに投与することが最も効果が期待できるかが分かるように成っていくのではないかと思います。

脳出血の治験
現在脳出血の患者さんに対しては急性期・亜急性期・慢性期のどの相であっても治験は行われていません。

頭部外傷の治験
頭部外傷による脳損傷に対してSanbioのSB623を使った治験は2019年3月で日本国内における治験が終了しています。この治験は6ヶ月後の運動機能の回復が細胞を投与された人達はそうでない人達に比べて有意に改善したことが報告されました。

脊髄損傷に対する治験と治療
脊髄損傷に対しては、2019年4月に札幌医科大学にて自分の細胞を点滴で投与する治療法が認可(期限付き条件付き承認)され、治療として受けることが出来る様になっています。

注意)それぞれの治験は独自のルール(プロトコール)で参加を決めています。希望されても必ずしも参加できるわけではありませんので、詳しくは各施設・企業へお問い合わせください。