脊髄損傷慢性期に対する神経幹細胞移植治験成績(米国)
Clinical Outcomes from a Multi-Center Study of Human Neural Stem Cell Transplantation in Chronic Cervical Spinal Cord Injury. Levi AD, Anderson KD, Okonkwo DO, Park P, Bryce TN, Kurpad SN, Aarabi B, Hsieh J, Gant K.
J Neurotrauma. 2019 Mar 19;36(6):891-902.
<Abstract>
慢性期脊髄損傷(頚髄)患者への神経幹細胞の髄内移植治験。試験①:1500万-4000万個(n=2ずつ)、試験②:4000万個vsコントロール(n=6と4)。免疫抑制剤は6か月間投与し以後中止した。手術等による大きな合併症は無く軽度の運動機能改善を認めた。しかし得られた改善がスポンサー企業の予想値を下回ったため試験は途中で中断された。
<Figureの説明>
上肢の機能回復の経緯。治療群(□)がコントロール(〇)より少し良い。
<Introduction>
脊髄損傷慢性期に有効な治療法は無いが、神経幹細胞(HuCNS-SC;Stemcells社)は有効性が脊髄損傷モデル動物で、安全性が他の疾患(致死性リボソーマル病)など臨床研究(希少疾患)で確認されているため、今回慢性期脊髄損傷患者に対して髄内移植の臨床研究を行った。
<Methods>
脊髄損傷患者(頚髄5-7/ASIA A or B/受傷後4-24か月)に対して2つの試験を実施。試験①:1500万/3000万/4500万個を移植(n=2/計6例)、試験②:4000万個(6例)vsコントロール0個(4例)。細胞は4℃で保存され輸送。手術は損傷部分の周囲に針で穿刺し注入。免疫抑制剤を6か月服用し、運動機能回復(ISNCSCI UEMSとGRASSP)で評価した
<Results>
運動機能の回復は、試験②でUEMSは細胞群の方が少しよかった(有意差無し)が、GRASSPはほとんど変わらず、痙縮も変わりなかった。重篤な合併症は治療群(10患者)で9例、コントロール群(4例)で2例であった。内容は感染・痙攣・自律神経失調等。ただ最終結果を待たず試験はスポンサー企業の意向で中止となった。
<川堀の感想>
治験がスポンサー企業の意向で途中で中断となり、完全なデータが回収できなかったという残念な試験。ただその理由が効果が企業の予想値を上回らなかった事であり、十分な効果が確認できなかったという事だと思う。神経幹細胞を投与してもグリアや血管など脊髄に存在する他の細胞は補えず、単独投与だけでは難しいと思う。また試験②は治療群が受傷後1年以内が多いのに、コントロールは1年後が多い。完全なランダム化ではないため、試験②が少し良かったというのも完全には受け入れられない。