制御性Tcell(Treg)は脳梗塞の回復に重要

Brain regulatory T cells suppress astrogliosis and potentiate neurological recovery.
Nature. 2019 565(7738):246-250.
Ito M, Komai K, Mise-Omata S, Iizuka-Koga M, Noguchi Y, Kondo T, Sakai R, Matsuo K, Nakayama T, Yoshie O, Nakatsukasa H, Chikuma S, Shichita T,5, Yoshimura A.

Abstract
制御性T細胞(Treg)の慢性期脳梗塞回復過程の関与を検討した。脳内Tregは他臓器内Tregと違いセロトニンレセプターを発現しており、増殖にはIL2,IL33,セロトニンが関係し、遊走にはCCL1,CCL20が関係していた。Tregはアンフィレグリンを分泌することで異常なグリオーシスを抑制し、結果、脳梗塞からの回復を促していた。

Figureの説明>

Treg
を除去(DREG)すると、グリオーシスが脳梗塞の辺縁だけでなく内部にも発生し(左上)、面積が大きい(右上)。また運動機能の回復も悪い(左下)が、梗塞のサイズは変わっていない(右下)。

Introduction
制御性TcellTreg)が脳梗塞急性期に炎症抑制効果(IL10分泌)があると報告されているが、この時期は数も少なくその効果は懐疑的である。一方亜急性期以降では脳内Tregは明らかに増え、何らかの効果があると思われるため検討した。

Methods
C57BL以外にも様々な遺伝子ノックアウトマウスを使用。脳梗塞はスレッドモデルで、脳内細胞(Tcellやマイクログリアやアストロサイト)は酵素で脳を溶かし獲得した。細胞はFACSによる表面抗原測定や遺伝子改変(CRISPER-Cas9)による効果、次性代シークエンサーによる表面抗原検索を行った。

Results
Tregは機能回復に必要(Treg除去マウスで回復遅延&グリア瘢痕拡大&脳内毒性マーカーmRNA増加&penumbra領域の神経細胞死増加)。またTreg除去マウスにTregを投与すると元に戻せた。脳内Tregは他臓器Tregと違うレセプター(セロトニン、CCR6/8)とmRNA(アンフィレグリン)を発現し、CCL1/20を認識して脳内に入ってきて、アンフィレグリンを分泌してIL6STAT3 パスウェーを介してグリア瘢痕を抑制していた。

<川堀の感想>
非常に情報量の多い論文で素晴らしい研究だと思う。まとめると制御性Tリンパ球は慢性期に回復を支援しその機序はアストロサイトのグリオーシスを抑制するとのことであった。しかし画像を見る限り、病的な部分と正常な部分を分けるグリオーシスの働きが阻害されているように見え、Tregを除去した結果グリア細胞が正しく境界にグリオーシスを作れなくなったこともTregが必要な理由では無いかと考えた。つまり単純にアストログリオーシスの発現量を減らしたことが回復に意味があった訳では無く、グリオーシスの遊走能に関与したかもしれないと考えた。私はグリオーシスは必ずしも悪者では無いと考えている。