脳の神経細胞は骨髄幹細胞から供給されうる

Targeting of marrow-derived astrocytes to the ischemic brain.
Eglitis MA, Dawson D, Park KW, Mouradian MM.
Neuroreport. 1999 Apr 26;10(6):1289-92.

Abstract
骨髄幹細胞は血液以外になるほかにも脳組織内に細胞を供給していると考えられている。メスラットを放射線で骨髄根絶したのちオスの骨髄を移植したモデルで脳梗塞を作成すると、オス骨髄幹細胞由来GFAP陽性のグリア細胞が脳梗塞を作らなかったラットに比べ55%多く脳内に存在し、特に脳梗塞周囲では161%もアップしていた。

Figureの説明>
脳内に存在するGFAP(赤)細胞の中に骨髄から来た証(緑)を持っているものが存在している。ただこの当時の顕微鏡の限界ではあるが奥行きの情報が無いのが気になる。

Introduction
骨髄幹細胞が血液細胞ではない脳細胞になり得ると考えられ、実際マイクログリアの20%とグリア細胞の少数は血液由来である。また脳内に骨髄間質細胞を投与すると20%が生存し神経系マーカーを発現することが知られている。今回オス由来骨髄を移植したメスラットに脳梗塞を作って骨髄由来の細胞がグリアになるのかを検討した。

Methods
8Wメスラットに9Gyの放射線を当て、すぐ8Wオスラットから取った新鮮骨髄を移植すると4Wで骨髄が完全に生着した。その1ヶ月後に脳梗塞(田村モデル)を作った。2日後に脳を取り出し、Y染色体(オス)をFISHで、グリアをGFAPで染色して、骨髄細胞が脳内のグリア細胞の組成に関与しているかを検討した

Results
脳梗塞の有無にかかわらず脳内にY染色体&GFAP陽性の骨髄由来グリア細胞が見つかった。脳梗塞ラットではY染色体陽性細胞は梗塞巣側で正常側より55%多く存在した(2.8%vs1.8%)。またGFAP陽性細胞に占めるY染色体陽性細胞の率も同様に梗塞巣で高かった(4.7%vs1.8%、正常ラットは0.5%)

<川堀の感想>
脳梗塞の内部には骨髄からやってきた細胞が多く存在し、またその細胞の一部はグリア細胞になっているという結果であった。発症24時間で骨髄からやってきて分化するとは思えないため、元々脳内に存在していた骨髄由来の細胞が急速にグリア細胞に変化した(もしくはもともとグリア細胞になっていたのがGFAP陽性に変化した)と考えるのが自然と考える。脳内の細胞は子どもの時に出来上がったら以後は増えないという過去の概念は完全に覆されたと言える古いけれども素晴らしい論文だと思う。