脊髄損傷では損傷以下で自律神経(介在神経)が活性化する事で免疫機能が低下する

Silencing spinal interneurons inhibits immune suppressive autonomic reflexes caused by spinal cord injury
Ueno M, Ueno-Nakamura Y, Niehaus J, Popovich PG, Yoshida Y.
Nat Neurosci. 2016 PMID: 27089020

Abstract
脊髄損傷(第5胸髄より高位)では全身の免疫抑制とそれによる感染症が生じやすいがその機序は不明であった。本研究で、損傷部位より下位の交感神経の新規回路形成と過反応によって炎症抑制機能が生じている事、またこの交感神経の新規回路形成をブロックする事で過剰な免疫抑制(全身炎症)を防ぐことが出来る事を示した。

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Introduction
脊髄損傷(T5以上)では脳からの自律神経支配が届かなくなることで、交感神経(節前線維)の機能が亢進し、異常高血圧などの自立神経の過反応が生じる事が言われている。またこの自律神経過活動は全身の感染症に対する耐性を下げる(免疫抑制)事も知られており、実際、脊髄損傷後患者では感染症を併発する事が多い。しかしこの免疫抑制における自律神経の関与は不明なため今回調べた。

Methods
8週マウスのT3/9の脊髄完全切断モデルを用いた。自律神経ラベリングはPRV(膵臓内投与)、Fluoro-gold(腹腔内投与)を行い、自律神経が走行する側角以外にも中間・内側で神経数を数えた。新規発現した神経の性質が興奮性(グルタミン)なのか抑制性(GABA)なのかを調べ、逆に腸管を刺激してどの自立神経と繋がっているか(c-FOS)、どの神経系をブロックすると免疫が抑制されるのかを調べた

Results
T3切断にて側角ではなく、脊髄中間・内側において自律神経が増え、それは脳からの自立神経本幹では無く介在神経(interneuron:膵臓シグナル陽性・腸管シグナル陰性)で、興奮性神経(グルタミン)であった。腸管を刺激するとこの細胞が活性化し、この細胞の機能をブロックすると全身の炎症抑制(脾臓縮小とT細胞数の減少)が緩和された

<川堀の感想>
脊髄損傷後の過剰な自律神経活性化(異常高血圧などを引き起こす)が、興奮性介在ニューロンの新規発現によるものであると示した非常に画期的な論文。ただなぜT細胞数の減少を抑制した(正常数に戻した)かについては論じられていない。そこには腸管の関与がきっとあると考え、我々は現在実験中である。