幹細胞シートを作るときFBSの代わりにPLにしても大丈夫?
Stable cell adhesion affects mesenchymal stem cell sheet fabrication: Effects of fetal bovine serum and human platelet lysate.
Kim K, Thorp H, Bou-Ghannam S, Grainger DW, Okano T.
J Tissue Eng Regen Med. 2020 May;14(5):741-753.
<Abstract>
間葉系幹細胞(MSC)を用いた細胞シートの培養時に添加する栄養因子(FBS・PL)の違いによる品質を検証した。臍帯血由来MSCと温度感受性ディッシュを使用。FBSは平らな細胞が均一に並びシートが出来たが、PLでは接着が悪く自然にはがれ出来なかった。添加物の違いはシート化に関係した
<Figureの説明>
細胞の培養速度(Doubling time)の違い。左)FBSは均一・PLはランダムな育ち方。右)育つのはPLの方が速い
FBSで作ると細胞内の骨格が一方向になるが、PLでは骨格がいろんな方向に向く
骨格の違いによって形が変わるので接着する部分が弱くなるという考え方
<Introduction>
間葉系幹細胞の分化能と栄養因子分泌能による疾患回復に期待がかかるが、どうやって臓器に細胞を長期間定着させるかが課題で細胞シートが期待されている。ただ培養時に添加する栄養因子(FBS)は動物由来でヒト由来のPLが良い可能性があるが、出来るシートが同じになるか不明なので今回検討した。
<Methods>
温度感受性ディッシュにヒト臍帯血由来間葉系幹細胞(20万/35㎜ディッシュ)を、DMEM&20%のFBS/PLで培養。増殖率・分化能・表面抗原・シートの可否(剥離は4日後)・シートの免染&PCR(フィブロネクチン/bカテニン等)・シート細胞の老化・栄養因子分泌(HGF)を検討した。
<Results>
PLの方が速く増殖したが、他(分化能・表面抗原・細胞老化無)は同じ。しかしFBS(細胞骨格:一定方向)では全例シート化可能だったが、PL(骨格:不均一)は自然剥離してダメ(接着因子ITGb1低)。出来たPLシートは細胞数が多かったが、単位細胞当たりのHGF分泌・遺伝子発現は同じだった
<川堀の感想>
セルシード社の温度感受性ディッシュを用いてFBSとPLでシートを作ってみて比較した実験。PLでは細胞が密になって良いかと思ったら逆にうまくいかなかったという報告。その理由として彼らは細胞骨格が不均一になることで丸い細胞になってディッシュとの接着が悪くなると考えたが、細胞数も増えているのでそれだけでは無いように思う。ディッシュとの接着性と細胞同士の接着性の乖離が上手に剥がれない細胞を作り出しているのではないか。(PLは床とあまりくっつかないけど、細胞同士は引っ張り合っている)。ただ我々もシート化の研究をを進めており、非常に参考になった。