幹細胞移植後の腫瘍形成(海外の報告)
Donor-Derived Brain Tumor Follosing Neural Stem Cell Transplantation in an Ataxia Telangiectasia Patient
Amariglio N, Hirshberg A, Scheithauer BW, Cohen Y, Loewenthal R, Trakhtenbrot L, Paz N, Koren-Michowitz M, Waldman D, Leider-Trejo L, Toren A, Constantini S, Rechavi G.
PLoS Med. 2009 Feb 17;6(2):e1000029.
<Abstract>
神経幹細胞移植による移植細胞の腫瘍化の報告。毛細血管拡張性小脳失調症(AT)の男児が小脳と脊髄腔内に胎児由来神経幹細胞移植を受けた4年後に頭蓋内多発腫瘍が見つかり、染色体検査・SNPs検査・HLAタイプ等を検討したところ、腫瘍は移植された細胞由来であると分かった。
<Figureの説明>左が脳MRIでの腫瘍、真ん中が脊髄のMRIでの腫瘍。右が脊髄の手術の際に見つかった腫瘍。
<Introduction>
胎児由来の神経幹細胞は神経再生能力が高く、中枢神経再生医療の細胞として、大人(頭部外傷・脳梗塞)でも小児(遺伝的疾患)でも期待されている。しかしこの細胞には腫瘍化の問題があり、それは特に同種でより発生しやすく、ヒト細胞が動物投与で安全であってもヒトで安全かは分からない。今回投与細胞が腫瘍化した症例を報告する
<Methods>
患者から得られた腫瘍を以下で細密検査
染色:構造:HE、神経細胞(NF、NeuN)、グリア細胞(アストロサイト:S-100、GFAP、エペンディウム:EMA)、細胞分裂能(p53, Ki-67)
XY染色体検査:FISH法
遺伝子変異(SNPs)検査:患者血液・ほほの粘膜・腫瘍を比較
HLAタイプ:A, B, DRを検討
<Results>
ATの男児で2001年から3回モスクワで胎児由来幹細胞の移植を受けた。2005年にMRIでテント下と脊髄(馬尾)に腫瘍が見つかり、その後徐々に増大したため、2006年に馬尾部のみ手術摘出された。
染色:病変はNeuronとastrocyteの形態をしていて細胞分裂は少なかった。
XY染色体検査:腫瘍は染色体はXX(女性)が多く存在(患者は男児)
遺伝子変異・HLAタイプ:腫瘍はATの遺伝子変異が無く、HLAタイプも別であった。
<川堀の感想>
胎児由来の神経幹細胞は神経細胞に分化させることが出来、脳の失われた神経細胞を補うことが出来る、万能性を有しているが、今回の様に腫瘍化する危険性がある。これはiPSやES細胞にも言えることで、改めて細胞治療の持つ危険性を示した。今回の毛細血管拡張性小脳失調症は10代から20代前半で亡くなってしまう非常にシビアな病気であり、わらにもすがる思いで治療を受けたと思われ、腫瘍化のリスクも考慮されたとは思うが複雑な心境だ。安全で、効果のある治療をいち早く届ける努力を続けたい。