20180515 脳梗塞に対するヒト神経幹細胞移植治験(イギリス:PISCES研究)
Human neural stem cells in patients with chronic ischaemic stroke (PISCES): a phase 1, first-in-man study.
Lancet. 2016 Aug 20;388(10046):787-96.
<Abstract>ヒト神経幹細胞(ReNeuron社)による慢性期脳梗塞患者への細胞治療(被殻への直接投与)の治験報告。200, 500, 1000, 2000万個の移植を行い2年間フォロー。11人(平均69歳、NIHSS7点、発症29ヶ月)に投与し平均NIHSS改善2点、細胞関係の合併症はなかった。
<Figureの説明>多くの患者においてNIHSSで改善が得られている。(中には劇的に聞いている人もいる(紫:ほとんど障害無し)し、変わらなかった(オレンジ)もいる)
<Introduction>脳梗塞は重大な疾患で、発症後20%前後が要介助、全医療費の5%を要する。脳梗塞に対する薬物治療は有効性が認められるものが少なく、幹細胞治療が期待される。ヒト神経幹細胞は動物への直接投与によって運動機能改善や新規血管造成などが得られているため、患者において治験を行うことになった。
<Methods>イギリス。治験参加条件:60歳以上、発症から6-60ヶ月後、NIHSS6点以上。200-2000万個の細胞を投与し2年間検証。細胞はヒト胎児由来の神経上皮細胞にc-myc遺伝子を導入して作成。手術当日に解凍出荷し手術は定位的に投与。1穿刺に100ul投与(1mmおきに5カ所)で1-4穿刺した。
<Results>11人に投与。硬膜外血腫などの合併症があったが後遺症を残すものはなかった。運動機能改善はNIHSSで0-5点の改善(平均2)、他の指標でも改善が見られた。投与経路に沿ってMRIで高信号が出現していた(改善との関係なし)。MRIで神経線維を見た検査では一部で改善が見られた。
<川堀の感想>脳梗塞は慢性期に症状が徐々に増悪することがあるなかで、2年間の間コンスタントにNIHSSスコアが改善しているのは素晴らしいことと思われる。劇的に改善している患者もいればほとんど効果の無い患者もいるので、それをどのように分けるかが今後の課題と思われる(どんなタイプの患者にこの治療の効果があるのかを見極める)。ただ胎児由来の神経幹細胞に遺伝子導入したものは将来の癌化などのリスクが残りすぐに日本で治療として認可されるかは不透明。既にPISCESⅡがイギリスとアメリカで始まったと聞いている。その結果も注目したい