新説!脊髄のアストロサイトスカーは回復に必要だった
Astrocyte scar formation aids central nervous system axon regeneration.
Anderson MA, Burda JE, Ren Y, Ao Y, O’Shea TM, Kawaguchi R, Coppola G, Khakh BS, Deming TJ, Sofroniew MV.
Nature. 2016 Apr 14;532(7598):195-200.
<Abstract>
切断された神経(Axon)の周りに出来るアストロサイトの結合織(スカー)は神経再生に有害と考えられてきたが、遺伝子操作でアストロサイトのスカー新規生成を抑制しても慢性期にスカー除去をしても神経再生には効果が無かった。傷ついた部分に栄養因子と足場材を入れる実験ではスカー有りの方がスカー無しより神経再生が得られていた
<Figureの説明>
アストロサイトスカーの新生阻害(TK+GCV、STAT3-CKO)をしたら阻害をしない(WT)脊髄に比べて、逆に神経の伸長が阻害された。緑GFAP(アストロサイトスカー)、オレンジ(上から伸びてきた神経)。
一度出来たアストロサイトスカーを除去したら逆に神経の伸長が悪くなった
アストロサイトスカーが出来る状態(A、B)と出来ない状態(C)でBとCに足りない栄養因子を混ぜてあげたらBの方が神経再生が得られた。Aはそのままではダメだった。神経再生にはスカーと足りない栄養因子(BDNF/NT3/足場)が必要だった。
<Introduction>
哺乳類において切断された軸索の再生は難しい理由として、アストロサイトスカーおよびその生成物コンドロイチン硫酸が損傷部位に出来ることで軸索が伸びるのを阻害している考えられてきたが、遺伝子改変動物でアストロサイトスカー新規生成、慢性期スカーの除去などを行ってその通りなのかを検証した。
<Methods>
アストロサイトの分裂阻害(TK)・スカー新生阻害(STAT3)の遺伝子改変マウスのT10を両サイドから圧迫して脊髄損傷を作った。スカー(GFAP)とコンドロイチン硫酸の沈着と神経伸長(下降:運動神経・上行:感覚神経)の関係を免疫染色で評価した。損傷部位でのRNA発現を評価したところBDNFとNT3の栄養因子が低下していたので、これを混ぜた足場材で神経再生が得られるかを確認した
<Results>
アストロサイトスカーの新規生成をブロックしても、一旦出来たスカーを薬物的に除去しても、運動・感覚神経の損傷部位への伸長は得られなかった(コンドロイチン硫酸の沈着は変化なく、これが原因と考えられた)。神経栄養因子NT3とBDNFとLaminin入り足場材を脊髄損傷部位に投与するとスカーが存在する方が神経の伸長が得られた。
<川堀の感想>
データ量が多くかなり難解であったが、彼らの結論は「完全な悪者であると言われた来たアストロサイト(グリア)スカーでも、良い動きと悪い動きを持っていて、良い動きをするのに足りない因子(BDNF/NT3)を足してあげれば一気に良い方(回復)に傾くだろう」とのことであった。長らく悪者と考えられていたスカーが実は回復を助けているかもしれないという新たなデータには価値があるが、今までの多くの研究との齟齬が残り、真実はどこにあるのか?(実験方法が違うことも原因)と考えさせられた。また最後の部分でスカーと合わせて古くから悪者と言われるコンドロイチン硫酸もあった方が良いかも?という事が書かれていたがこれは証明するデータが無いので間違っていると思う。