幹細胞に接着因子を強発現させて動脈投与しても生着しない

Mesenchymal stem cells injected into carotid artery to target focal brain injury home to perivascular space.
Andrzejewska A, Dabrowska S, Nowak B, Walczak P, Lukomska B, Janowski M.
Theranostics. 2020 May 17;10(15):6615-6628

Abstract
間葉系幹細胞の経動脈的投与では血管壁接着が重要と考えられ、接着因子インテグリン遺伝子を強発現したMSCの効果を見た。脳梗塞ラットにインテグリン強発現MSCと通常MSCを投与したところ3日目には通常MSCの方が多く脳内に入り、マイクログリアによる貪食も通常MSCの方が少なかったなど、インテグリンを強発現した効果は見られなかった。

Figureの説明>
経動脈的に投与した細胞が直後(After Tx)では脳内T2*で黒く見える(2段目と4段目)が、Day 3にはほとんど無くなっている。

Introduction
間葉系幹細胞の経動脈的投与は十分な脳内進入が得られるか不明である。白血球はインテグリンa4b1を介して血管壁のVCAMと接着し脳内進入するので、これを参考にMSCにもインテグリン(もともとb1はあるのでa4を)強発現させたところ血管壁への接着が増加した。今回接着の継続と脳内進入について検討した。

Methods
LonzaのヒトMSCSPIOでラベリングし、リポフェクタミンでインテグリンa4mRNAを導入。ウワバイン脳損傷モデルに48時間後に通常MSCかインテグリン強発現MSCを頸動脈から投与。MRIで細胞の動態、病理所見で脳内進入と免疫細胞による貪食を確認。in-vitroで脳分解物に対する各MSCmigrationを評価した。

Results
細胞接着は0-1日ではインテグリンMSCの方が多かったがその後両方とも急激に減少し、3日では同じになった。MSCの脳内進入は3日目で確認されたが通常MSC51%)の方がインテグリンMSC39%)より多かった。またインテグリンMSCの方が多くマイクログリアに貪食されていた(48vs38%)

<川堀の感想>
細胞接着因子(インテグリン)を強発現させることで血管壁への接着を強め、その結果脳内への細胞進入数を増やそうという試みであったが、①3日目にはほとんど居なくなっていた(0-1日目だけ血管に多く接着)、②内部に入った数はむしろ通常の方が多く、通常の方が免疫細胞に貪食されていなかった、という望んでいない逆の結果になった。①は細胞が脳内に入って仕事をするためには、血管壁にくっつけば良いという単純なものでは無いことを意味し、②は遺伝子をいじった細胞はどこかで免疫細胞に見つかる(異常なものと認識される)事を意味していると思う。動脈投与は多くの細胞を低侵襲で入れることが出来てPromisingな方法と考えられているが、必ずしもそうでは無いかもしれないという情報。ただNegative dataをここまで積み重ねて報告したことも非常に素晴らしい。