MSCは傷ついた神経細胞にミトコンドリアを譲ってダメージを軽減させる

Mitochondrial transfer from mesenchymal stem cells improves neuronal metabolism after oxidant injury in vitro: The role of Miro1.
Tseng N, Lambie SC, Huynh CQ, Sanford B, Patel M, Herson PS, Ormond DR.
J Cereb Blood Flow Metab. 2020 Jun 5:271678X20928147.

Abstract
ダメージを受けた神経細胞に対して間葉系幹細胞(MSC)がミトコンドリアを送り込み保護しているかを検証した。MSCは神経細胞に接触してミトコンドリアを送り(輸送)し、神経細胞の生存率と代謝を改善していた。また輸送にはMiro1(発現亢進でミトコン輸送up、低下で輸送down)とTNFAIP2という遺伝子が関与していた。

Figureの説明>
MSCのミトコンは赤、神経細胞のミトコンを緑で染色したところ、矢印の神経細胞にピンクと緑の両方を持つ神経細胞が存在し、MSCから神経細胞にミトコンドリアが移ったと考えられる。右のFACS:神経細胞を共培養(d)したときは赤と緑が共存するが、膜で隔てて培養したときは緑はあるけど赤は無い

MSCと神経細胞でミトコンドリアがどのように受け渡されているかのシェーマ。

Introduction
ダメージを受けた細胞に対するMSCの効果は従来、炎症制御や分化が考えられてきたが、近年ミトコンドリアの移動(輸送)が指摘されている。これはGap junctionもしくはナノチューブトンネルを介してミトコンが細胞間を移動するというもので、Miro1という酵素ンパクが関与している。今回ダメージを受けた神経細胞においてもこの移動が生じているかを検証した。

Methods
神経細胞は生後すぐのマウス脳から採取培養し細胞ダメージは過酸化水素水で行った。MSCLonzaのヒト細胞を使って、細胞内ミトコンドリアをMitoTrackerで可視化した。神経細胞とMSCを競売要させて移動、神経細胞生存率(MTT)、移動タンパク発現、神経細胞代謝(酸素・酸)を測定した。MSCは移動タンパクMiroを過剰発現(DNAベクター)、ノックダウン(siRNA)したものも使用した。

Results
神経細胞とMSCの共培養で、接触時のみミトコンドリアが移動し、それによって、神経細胞の呼吸能・ATP産生量が改善した。MSCの移動促進タンパクMiro1を強発現させると神経損傷が軽減し、ノックダウンすると損傷が増加した。一方ダメージを受けた神経細胞でもMiro1TNFA1IP2などの遺伝子発現が亢進していた。

<川堀の感想>
MSCが傷ついた神経細胞にミトコンドリア(エネルギーATP90%を作り出す機関)を分けてあげているという衝撃的な内容。各の細胞の中でエネルギーを作る仕事をしている機関を分け与えている事は現象としては理解できる(会社で言う出向か)が、実際に人体の中でも起こっているとはと驚いた。幹細胞研究はまだまだ分からないことばかいだなと感じた論文。