骨髄幹細胞を脳内に始めて投与した論文(Azizi)

Engraftment and migration of human bone marrow stromal cells implanted in the brains of albino rats–similarities to astrocyte grafts.
Proc Natl Acad Sci U S A. 1998 31;95(7):3908-13.
Azizi SA, Stokes D, Augelli BJ, DiGirolamo C, Prockop DJ.

Abstract
ヒト骨髄幹細胞(骨髄内に存在しプラスチック接着性を有する非血液幹細胞)をラットの脳(線条体)に投与した。5-72日後に20%の細胞が生存し炎症や拒絶反応は無かった。移植幹細胞は神経幹細胞の移動性と同じ様に脳表に分布し、コラーゲンI抗原が陰性になるなど変化していた。

Figureの説明>脳内に骨髄幹細胞が分布している様子。黒はヒト、白はラットでどちらも違いは無く、幅広く分布している。

Introduction
パーキンソン病などに対する胎児由来神経幹細胞の移植が試みられ、良い成績が出ているが、倫理・生着率(5-10%)の問題が残る。骨髄内に存在する間葉系幹細胞(非ー血液幹細胞)は静脈投与すると全身で生着・分化するため移植細胞候補になり得る。今回、ヒト骨髄間葉系幹細胞をラット脳内に直接投与し、生着・分化を見た

Methods
ヒト骨髄間葉系幹細胞(BMSC)は、骨髄液をフィコールで分離し、αMEM10%FBSで希釈し7500万個/25cm2/7.5mlでフラスコに播種。ラットBMSCは大腿骨から、ラットグリア細胞は脳から採取。細胞はビスベンザミドでラベルし、ラットの脳内に移植し、5-72日後に脳を採取し病理切片で移動を確認した。

Results
プラスチックに付着する細胞をP3-5で使用したが、PDGFを入れると細胞増殖が良くなった。また細胞の形は2通りあった(幅広と細長い)。脳切片では移植部位には炎症(グリオーシス・白血球の浸潤)は無く、細胞は対側半球まで広く分布・生存(数は20%)していた。病理でヒトHLA抗原は確認されたが、移植前にあったコラーゲンIやフィブロネクチンは無くなっていた

<川堀の感想>
骨髄幹細胞(骨髄液内に存在する単球でプラスチックに付着する成分)を脳内に投与した初めての論文。Aziziらは脳内に薬を届けるVectorとして使えるのでは無いかと考えていて、この細胞自体が直接治療効果をもたらすかどうかは言及していない。間葉系幹細胞の脳内投与の全ての始まりに成った貴重な論文。