脳出血後のリハビリ回復に効果のある薬剤
CRMP2-binding compound, edonerpic maleate, accelerates motor function recovery from brain damage.
Abe H, Jitsuki S, Nakajima W, Murata Y, Jitsuki-Takahashi A, Katsuno Y, Tada H, Sano A, Suyama K, Mochizuki N, Komori T, Masuyama H, Okuda T, Goshima Y, Higo N, Takahashi T.
Science. 2018 Apr 6;360(6384):50-57.
<Abstract>
edonerpic maleate(EM)という化合物はCRMP2に結合することで、神経シナプス表面にAMPA受容体(グルタミン受容体でNMDAと違い正のシグナルを送る)を移動させ、ラット・猿(脳出血急性期モデル)において学習効果による運動機能回復が得られたことを証明した。
<Figureの説明>
左)脳MRIにて猿の脳出血モデル(かなり臨床に近い出血モデルと思われる)。右)運動機能回復がEM投与(赤)で有意である
<Introduction>
現在脳損傷に対する機能回復に有効な薬剤は存在しない。脳出血後のリハビリによる運動機能回復機序は、正常な脳が変化する(神経可塑性)ことで代償的に得られると考えられ、その際に神経終末にあるAMPA受容体の関与があるようだ。今回特定の薬剤がCRMP2レセプターを介してAMPA受容体をシナプス表面に移動させ機能回復に効果があることを証明した。
<Methods>
細胞電気活動は脳スライスから測定。マウスは凍結損傷モデルで1日後からEMを投与。CRPMの効果を見るためノックアウトマウス、ノックダウンを使用。猿はコラゲナーゼモデル(ハミルトンシリンジで0.6U投与)で作成し、出血7日目くらいからEMを投与。
<Results>
EM投与は神経細胞の電気活動を上げる→IP法でEMとCRMPが結合し、CRMPがADF-cofilinを介してAMPA受容体(運動機能改善に必要)をシナプスに誘導。EMは少ない量では効果無く(20, 5mg/kg〇、1mg✕)、猿脳出血モデルにおいて上肢の機能回復を優位に早めた。
<川堀の感想>
脳出血後のリハビリにおいて神経終末のグルタミン酸AMPA受容体が重要な役割を果たしていて、今回の薬物EMはそのAMPA受容体を増やす効果があり、リハビリも改善したという報告であった。素晴らしい論文で、大変な情報量だった。Scienceに載るのは大変なことだと思った。ただAMPAが増えたことがAMPA/NMDA比で評価され絶対量が不明なこと、AMPA受容体拮抗薬は抗けいれん薬に使用されており、脳出血後にAMPA受容体拮抗薬を飲む人が回復が遅いという印象はない事が現実とのギャップであった。コラゲナーゼ0.6Uも少し少ない様に感じた。Fujifilmで治験が開始されているとのこと。結果に期待したい。