はじめに

くも膜下出血は、主に脳の動脈に出来たコブ(動脈瘤)が破裂して脳の周囲に出血が起きる病気です。破裂直後に重症な状態になることが多く、治療を行っても、もとの生活に戻ることが出来る人は30%程度と言われている恐ろしい病気です。また動脈瘤の治療を行っても、出血後3日から2週間程度は今度は脳の血管が出血の影響で狭くなって脳に十分な血が回らない血管れん縮(と脳梗塞)と呼ばれる病気を起こすことがあるので手術治療後も2週間程度は厳重な注意が必要です。脳の表面に出血することをくも膜下出血と呼ぶので、他の原因(脳動静脈奇形、頭部外傷)などでも病名はくも膜下出血となることがあります(この場合は動脈瘤の破裂ではないので治療法が違います)。

症状

突然の激しい頭痛(これまでに経験したことがないような頭痛、ハンマーで殴られたような痛み)が典型的な症状です。ただ重症例では突然倒れ、意識を失うこともあります。

検査方法

A:脳内(くも膜下腔)に出血したことを確認する検査

A-1:頭部CT検査(シーティーけんさ)
脳の表面(くも膜下腔といいます)の出血が白く写ります。最も簡便に確実に診断できる方法です。
写真:脳底槽に星(★)のような形で出血が確認されます。

A-2:脳MRI検査(エムアールアイけんさ)
脳の表面の血液は出血した時期に応じた写り方をします。確実に診断を行えるようになるにはある程度の経験が必要です。
写真:FLAIR法で脳の溝に白い線が確認できます

A-3:腰椎穿刺(ようついせんし)
ごく少量の出血や、出血してから時間が経ってCTやMRIでは判断が難しい場合には、腰から脊髄液を注射針で10mlほど抜いて検査をすることで出血の有無を確認することが出来ます。CTやMRIの普及で本検査法はあまり行われなくなってきています。

B:破れた動脈瘤がどこにあるかを確認する検査

B-1:頭部CTA検査(シーティーアンジオけんさ)
頭部CT検査に引き続いて行われることが多いです。同じ機械を使って造影剤を静脈から注射して検査を行うことで鮮明な血管の画像が得られます。
写真:前交通動脈に動脈瘤を認めます(〇)

B-2:脳MRA検査(エムアールエーけんさ)
脳MRIに引き続いて行われることが多いです。同じ機械を使って造影剤を“注射しない”で血管の画像が得られます。(簡便な検査ですが、詳細な血管の情報はCTAの方が得られます)
写真:上と同じ患者さんです。前交通動脈に動脈瘤を認めます(赤〇)

B-3:脳血管造影検査(のうけっかんぞうえいけんさ、アンジオ)
最終診断として行われます。カテーテルという細い管を太ももなどの動脈から脳内まで到達させ、造影剤を流しながらレントゲン撮影を行うことで詳細な画像の情報が得られます。最近は機械の進歩により3次元撮影が可能となっています。これによって動脈瘤の場所を更に詳細に観察することが出来るようになっています。
写真:上と同じ患者さんです。3次元で細かい血管の情報が得られています(赤〇)

治療方法

A:開頭によるクリッピング手術

頭の骨をあけて、顕微鏡下に脳のしわを分けていき、破れた動脈瘤の根元に金属のクリップをかける方法です。

メリットとして、デメリットとして
メリット
①長い歴史があり長期間にわたる有効性が確立している(再治療を必要としない)こと、
②動脈瘤の形によらず多くの場合は治療が可能なことが上げられます
デメリット
①既にくも膜下出血で痛んだ脳を分けるため更なるダメージの危険性があること、
②開頭による全身の負担が大きい(特に高齢者)ことなどが上げられます。

写真左:クリップをかける直前の動脈瘤
写真右:クリップをかけ終えた後の動脈瘤

 

B:血管内アプローチによるコイル塞栓術

頭を切らないで治療出来る方法で近年注目を集めています。
太ももや手の動脈から細い管(カテーテル)を脳内の動脈瘤周辺に運び、金属の糸(コイルと呼びます)を動脈瘤の中に入れたり、動脈瘤の入り口を金属の筒で被うことで、動脈瘤の中に血が入らなくさせる治療法です。
メリットとしてことなどが上げられますが、デメリットとして、が上げられます。
メリット
①頭を開けずに治療するため体への負担が小さいこと、
②脳を触らずに治療するため追加の脳ダメージが少ない
デメリット
①形の複雑な動脈瘤や血管の蛇行が強い場合には適切にコイルを置くことが出来ず治療が不完全に終わる可能性がある(再出血の危険性がある)こと
②一旦完全に詰まっても、長期間経つとコイルがつぶれることで動脈瘤内に再び血流が入り再治療が必要になることがあること

写真左:コイル挿入前の動脈瘤(赤〇)
写真右:コイル挿入後の動脈瘤(造影剤が入らなくなっている、赤〇)

 

どちらの治療法も一長一短があり、多くの施設では動脈瘤の形や場所などから最適な治療法を選択することが多いです。