MHCをマッチさせたiPS細胞の移植は生存率が良くなる

MHC matching improves engraftment of iPSC-derived neurons in non-human primates.
Nat Commun. 2017 30;8(1):385.
Morizane A, Takahashi J, et al.

Abstract
免疫機能として自分と他人を区別する重要な因子であるMHCiPS細胞移植後の炎症反応と細胞生着に関係があるかをサルで調べた。MHCミスマッチの細胞を移植すると強い炎症反応(マイクログリアIba1、T細胞CD45)が生じる一方、MHCマッチは細胞生存率が上昇した。移植の際MHCの一致が重要と考えられた。

Figureの説明>

MHCがマッチしない(左側、B群)では矢印で示す移植部位に炎症(TSPO陽性)を生じている(右はA群)。

左からB群、A群、D群、C群の順番。A群とC群は細胞生存(THとFoxa2)が良いが、Dは低下しB群はほとんどいない

 Introduction
自分の細胞を用いたiPS治療はコスト・時間がかかりすぎるため、他人の細胞使用が現実的だが、移植を受ける人のT細胞などが幹細胞表面のMHC(HLA)を他人と認識し攻撃する。(実際に腎移植などではHLA-A/B/DRを揃えないと臓器生存低下)。今回サルでMHC一致と不一致のiPSを移植して炎症や幹細胞生存を検証した。

Methods
MHCのホモサル①からiPS細胞を作りドーパミン産生神経細胞に分化させて、①のアレイを持つヘテロサル②と持たないミスマッチサル③の基底核(500万個/サル)に移植した。更に免疫抑制剤を投与する群も作った(計4つの群、A群:①→②:MHCマッチ免抑制無し(マッチ無)、B群:①→③、C群:①→②免疫抑制有、D群:①→③免疫抑制有)。免疫染色、FACSPETで炎症と細胞生存率を評価した。

Results
移植3ヶ月後PETB群で炎症が悪化していて、病理で炎症部位にはCD3&45陽性のT細胞とマクロファージ(共にレシピエント由来)が集積していた。移植したiPS由来ドーパミン細胞はAC群>D群>B群で生存が少なくなり、特に成熟ドーパミン細胞が減っていた。

<川堀の感想>
細胞生着にMHCのマッチングが重要であることを示した非常に貴重な論文。MHCをマッチしないとT cellやマクロファージがやってきて細胞を攻撃し炎症が生じる事、またそれによって細胞の生存率が下がること、また免疫抑制剤を用いてもマッチしたときの様に生存率を改善させることは出来なかった(しないよりはましだが)事を証明した。また成熟したドーパミン細胞の生存率が幼い細胞よりも悪いのも興味深い。しかし、別の研究で移植細胞をMHCホモから作った場合、逆にNK細胞の攻撃をより受けやすくなるという報告(クリックで飛びます)もあり、他人の細胞が生着出来る様にすることの難しさを意味している。我々の様に、自家細胞(間葉系幹細胞)の製造コストを下げることも一つの答えだと確信した。