慢性期の脳損傷患者への細胞治療の効果の指標(DRS・FMで効いた効かなかったを決める閾値)

Determining minimally clinically important differences for outcome measures in patients with chronic motor deficits secondary to traumatic brain injury.
McCrea MA, Cramer SC, Okonkwo DO, Mattke S, Paadre S, Bates D, Nejadnik B, Giacino JT.
Expert Rev Neurother. 2021 Sep;21(9):1051-1058.

Abstract
外傷性脳損傷の患者における「意味の有る回復点数(MCID)」がそれぞれDisability rating scale, Fugl-Myer上肢、FM下肢、FM合計で何点になりうるかを3つの方法で計算したところDRSなら1.5点、FM上肢6.2FM下肢3.2点、FM運動全体8.4となった。

Figureの説明>
DistributionAnchorDelphi3つの指標で「意味の有る回復」の最低値を示し、その平均(Triangulated)を出したもの。3つの指標はほぼ同じで、24週と48週でもそれほど変わりなかった。

Introduction
脳の病気に対する臨床試験で「効果があった」とする定義の決定は難しい。外傷では古くよりGOS-Eが使われてきたがこれは大雑把な指標(良い回復8点→死亡1点)で、意味の有る回復が得られていても数値上は変わらない事がありうる。今回、外傷に対する幹細胞治療のデータを用いて、意味の有る回復が他のスケール(DRSFM上肢・FM下肢・FM運動全体)では何点になるかを検討した。

Methods
STEMTRA研究(外傷に対するSB623の幹細胞治療)で得られたDRSFMのデータを用いて、distribution-based0.5×SD, anchor-based(患者アンケートによる有意な回復), Delphi-panel(有識者会議)

3つの方法は概ね近いデータとなり、その平均(Triangulate)の治療後48週での有意な回復と言える値は、DRS1.5点、FM上肢で6.2点、FM下肢で3.2点、FM運動全体で8.4点であった。特に感度特異度が良い方法はFM全体であった。

<川堀の感想>
私も参加したSanBioの臨床研究のサブ解析。臨床研究の場合、どうしても「効いた」「効いていない」の白黒をつけなければいけないが、その指標決定は難しい。今回は外傷慢性期でDRS/FMでの効果の有る無しの指標となる数値を計算した研究。今後これをもとに効いた効かなかったなどを評価する事も出来るようになるだろう。ただ患者は元通りに戻る事を期待していて、「効果を感じる事が出来る最低限の回復」がゴールではない事は研究者として常に覚えておく必要がある。